長い道






今夜も慌ただしい人影を眺めながら、目的の宝石を攫う。
無駄のある動きの多い警備の隙を軽々とついて。

そして、いつもの帰りの夜空を1人で静かに飛翔する。
やがてサーチライトの届かぬ場所まてくると、上空を旋回しつつ、目的の場所に降り立つ。

今宵も煌々とした月が、彼を照らしている。

徐に懐から取り出した今夜の宝石を月に翳し、目的の物なのかどうかを確認する。


はずれ。


「残念」
さして、落胆もせずにそう呟くと、再びそれをしまい込む。
もう、慣れてしまった。何度も何度も、同じ事を繰り返し繰り返し。それでも見付からない、怪盗の捜し物。
見付かるまで、一体どれほどの罪を重ねれば良いのだろう。
全ての宝石の最後の一つまで、探し続けなければならないのか。

見付からないのは仕方がない。けれど……少し疲れてしまった。
「……無理してる……かな?」
自嘲気味に呟く言葉は、夜風に浚われて消える。




「何が……無理してるんだ?」
突然響いた、透き通った声。
怪盗はほんの僅かに表情を和らげつつ、建物の影に目を走らせた。

「……ごきげんよう、名探偵」
影から姿を現した東の名探偵に、優雅に片膝を付いて一礼する。
それは、いつもの仕種。

「相変わらず……気障なヤツ」
ほんの少しの呆れた表情をその顔にのせて、探偵は呟く。

「そんな私が好きなのでしょう?……あなたは」
そう悪戯っぽく応えるキッドに、新一は少し気恥ずかし気に顔を逸らした。


天空の月が静かに二人を照らす。遮る雲は何一つ無く。


「今日は……警備の方は何の助言もなさらなかったのですね」
何時にも増して、杜撰でしたよ?
あれではあまりにも私が可哀想です。
「お前が!?」
可哀想なのは、警察の方だろ?
「いえいえ。私だって、もう少し遊びたいですよ。……なんせ、KID(こども)ですから」
そう微笑むキッドに「タチ悪りぃ」と新一は呟いた。
それから少しだけ気まずそうにキッドを見つめ「違ったのか……?」と尋ねてきた。
キッドは微苦笑を浮かべつつ頷き、彼に宝石を渡した。
「これはお返しします。何時もあなたにはご迷惑をかけますけど……」
返しておいてくれますか?と。
そして新一は黙ってそれをポケットにしまい込んだ。

一体、何度同じ事を繰り返しただろう。
何度も何度も、繰り返し繰り返し、彼に渡す。
彼は、確実にそれを元の場所に戻してくれる。


そして、彼に渡す事で、己の罪がまた増える事を示し続ける。
命の石を見付け出すその時まで。



それが一体何時まで続くのか。
罪を重ねた道はまだ終わらない。





この長い長い道程のどこまで駆けていけば、終わりが見えてくるのだろう。






END






NOVEL

2001.09.01
Open secret/written by emi

楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] ECナビでポインと Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!


無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 解約手数料0円【あしたでんき】 海外旅行保険が無料! 海外ホテル