Hologram 中





開口一番、彼にそう言われた阿笠博士は、驚きのあまり言葉を失った。
となりで優雅にお茶を飲んでいた宮野志保も、もちろん驚いていたのだが、取り敢えず表面上は取り繕った。

……それにしても、何ともはや、とんでもない事を言い出す男である。

2人が出迎える間もなく、突然阿笠邸に飛び込んできた男は、そのままくつろぎ中の2人がいるリビングに姿を現すと、こう言い放ったのだ。


「頼む、博士、宮野女史!オレにもホログラムの新一をくれっ!」 と。




黒羽快斗の言葉に、呆れたとも困ったとも取れる表情で苦笑いを浮かべたのは、博士だった。
それとは逆に、志保は無表情を保ってはいたが……実は心中穏やかではなかった。
……ヤバイ。そして……マズイ。
そんな内心冷や汗ものの志保の心の内など露知らず、快斗は2人に話しかける。

「新一の所で見たよ、スゴイじゃないか。あんな優れモノのホログラムを発明するなんて、さすが博士天才っ!」
「いや、何の」
そう応えるのは博士。満更でもないように笑う。
「あのホログラム、凄く可愛かったよ。あれって、宮野女史をモデルしているんだって!?プログラミングも女史が施したんだってね、さすが天才科学者だね!」
「……ありがと」
溜息混じりで応える志保だが、快斗は気付くことなく言葉を続ける。

「あのメイドホログラムが、当初は新一のホログラムとして開発されていたのを聞いてさ。……しかも、かなりの所まで進んでいたんだろう?……と言うことは、ズバリ新一のホログラムの基本設定が存在する訳だよね」
「……まぁ、そうじゃが」
博士の返事に、快斗はにこりと笑う。
「なら、それを使えば新一のホログラムが完成するはずだよね?」
「無理ね」
嬉々として話す快斗に、しかし志保は冷たく一瞥した。

「確かに、当初は工藤君のホログラムを開発していたわ。基本設定もなされていた。……でも、現在工藤君の傍にいる『A.I』は、最初作ったプログラムの上に書き換えて作り出されたものなのよ。だから……」
「じゃが、バックアップとして、データを残しておらなかったかな?」
「博士!」
思わず慌てて声を上げる志保に、快斗はにやりと笑った。
「じゃあ、そのデータを使えば……出来るよね」
快斗の問いに、志保は憮然としながらも答える。
「ボディは組まれているわ。だから、姿は再生出来るようになっている。……けど、あくまでまだ『お人形』に過ぎないのよ」
志保の言葉に博士が頷いた。
「『A.I』は、基本動作や行動パターン等、膨大なデータを組み込んだ完成体じゃが、彼の場合はそう言った動作も思考パターンも知識も組まれていない、真っさらな状態であるには違いない。このままじゃ、只の等身大の人形じゃ」
「……それともあなた、その年になってお人形遊びがしたいとでも?」
「そ、そんな事は……」
本当は、それでも全然構わないなと思わなくはないのだが、それだと変態扱いされた上、とても譲ってくれそうにないので、敢えて快斗は言葉を濁した。

「ま、諦めなさい。貴方が思っているようなホログラムなんて、まだこの世にはそう何体も出来るものじゃないのだから」
それもそうじゃな。と相槌をうつ博士に志保も機嫌良く応えるが、当の快斗は引き下がるつもりなど、あろうはずかない。

しかし快斗は、妙にサバサバした表情で2人を交互に見ると、あっさりと言った。


「……分かった。ごめん、無理言って」
それまでとは打って変わった声で頭を下げる。そんな快斗の態度に呆気にとられた2人だったが、突然物わかりの良くなった彼に対して、さして不審を抱くことはなかった。
「今はまだ無理なんじゃよ」
「そうね。現段階では、第1号ホログラムを作るまでが限界なのよ」
未来はどうであれ、今はまだあの試作体は人形でしかない。互いに頷き合う博士と志保を交互に見つめていた快斗は、くるりと踵を返した。

「じゃ、オレ帰るね。お邪魔しました!」
快斗は、入ってきた時と同じ勢いでそれだけ告げると、あっという間に2人の前から姿を消したのだった。











快斗は勢い良く阿笠邸を飛び出すと、そのまま工藤邸に向かった。
もちろん、新一の元に行く訳ではない。工藤家と阿笠家には、双方が行き来する為の裏道が存在していた。わざわざ玄関に回らなくても済むようにと作られたものらしい。新一が隣りの家に用がある時は何時もそこを使用している。
快斗はその道を使って、再びこっそりと隣家に戻った。

敷地内に足を踏み入れ、屋敷の傍まで近付く。辺りを窺うかのように周囲に視線を走らせつつ、裏手に回り込む。
「……この辺でいいか」
あたりを付けていた場所までやって来ると、快斗は目の前にある引き違いの窓に手を掛ける。
錠錠されていた窓は、音もなく開かれた。
快斗は、躊躇うことなくそのまま身体を庭先から邸内へと移動させると、もう一度周囲を見やり、そして窓を閉めた。そのまま何事も無かったように歩き始める。
「えっと……ここから地下室への階段は……あそこか」
取り敢えず靴を片手に、地下の研究室へと急ぐ。
階下に広がるのは、快斗が想像していたよりも、遙かに広々とした空間だった。
精々こぢんまりとした部屋があるだけかと思ったのだが、快斗の目の前には5つの扉が前方、両脇に並んでいた。
『研究室』『発明室』『実験室』……などとプレートが掲げられているが、どれも胡散臭い。快斗は暫く迷った末に、片っ端から調べる事にした。

目的は、もちろん、新一のホログラムデータである。
あの場で、あの2人とぐたぐた言い合った所で、物事が快斗の望み通りに進むことがないのは目に見えていた。
新一のホログラムデータは存在している。その事さえ判れば彼等に用はない。
後は勝手に拝借してしまおうと、快斗は安易に考えたのだ。……彼は、もうすっかり手癖が悪くなってしまっていた。

ホログラムのデータは、新一の人型データまでは組み込まれているらしい。快斗としては、それだけでも充分観賞に値する一品だと思うのだが、一応この男はIQ400の持ち主である。
この無駄にあるIQを使えば、自分でプログラムを組めるかも知れない。
それに、新一の家にはA.I(見本)があるのだ。あれのデータを参考にして、快斗の望み通りに反応するプログラムを地道に入力していけば、ある程度のものは作り上げることが出来るのではないか。
もちろん、その為の装置も、ここから拝借するつもりである。
安易にそう考える快斗だが、これがあながち不可能ではない所が、彼の彼たる所以である。

「ま、それに、ダメならお人形さんのままでも構わないし」
何より、質量のあるホログラムである。抱き枕にするのも悪くないし、それ以上の事にだって利用可能かも知れない。
……と、些か不謹慎な考えを抱きながら、快斗は手前の部屋から、ホログラムに関する資料やデータがないかと調べ始めた。

のんびり探している暇はない。……上でくつろいでいる2人が、何時降りてくるとも限らないのだ。
しかし、そこはその手の経験は豊富な彼の事。手早く素早く、そして証拠を残すことなく、そして物色された痕跡すら見せずに捜索する。後から入ってきて、他人の手が触れた事など決して悟らせないように。これはもう職人技だ。
快斗は一つ一つ迅速に調べると、次から次へと部屋を移動していった。

「……おかしいなぁ。資料の一切が見付からないなんて」
4部屋まで探し終えた所で、快斗にも焦りが見え始めた。雑多に色々置かれている様々な発明品やその資料。しかし、どこにもホログラムに関する資料は見当たらない。
これだけ色々無造作に置かれているのに、何故だろう。もちろん、どの部屋にも金庫らしきものは無かったし、PCの中身は真っ先に調べ上げた。しかし、これといってロックされているデータもなかったし、見える場所でのデータは、興味をそそられる物こそあったが、快斗の望む物は見当たらなかった。

快斗は最後の望みをかけて、残りの一部屋の扉を開けた。
一番奥にあったその部屋は、他に比べて倍近い広さがあるものの、これといった物はなく、がらんとした内部だった。
壁には、一面何かしらコンピュータが埋め込まれるように設置されていた。少し前時代的な感のあるコンピュータルームと言った所だろうか。
「何だ……ここは」
辺りをきょろきょろと見回し、部屋の中央部にまで歩を進める。ふいに足下で何かに躓いた。
転けそうになるが、持ち前の運動神経で難なくかわし、視線を床面に向けると、何か鉄のような物で出来た薄い円盤のような作りになっている。快斗は膝をついて、それを軽く叩いてみた。
「何だろう……何かの合金かな」
何の変哲もない円盤だが、快斗にはなぜだか気になった。
円盤の中心に立って、四方をぐるりと見渡す。だが、これと言って何もない。
「何もないなぁ……うん?」
ぐるりと眺めていた快斗だったが、ふと、壁面に小さな出っ張りがあるのに気がついた。
急いでその場に駆け寄る。それは出っ張りではなく、何かが壁面から飛び出していたものだった。壁面と言っても、只の壁ではない。よく見ると、そこも何かしら機械が埋め込まれている。快斗が目にしたのは、その機械から飛び出したままになっているディスクだった。
快斗はそれを取り出し、まじまじと見た。
それは、快斗も見たことのない形状のディスクだ。MOよりは大きいが、CD−ROMよりは小さい。そして、驚くほど薄い。これは、この壁面コンピュータ専用の記憶媒体のようだった。
そのディスクの表面のシールに、何かかが書かれていた。
「『shin_1』……?シン……イ、チ……新一。これか!」

快斗は壁面を見回し、電源を探すと、それはすぐに見付かった。躊躇うことなくスイッチを入れ、『shin_1』と書かれたディスクをその中に放り込む。
……すると、壁面から僅かにモーター音がして、それまで壁と同化していた小さな液晶パネルが光った。

パネルに『Holodeck program shin_1』の文字が浮かび上がると同時に快斗の背後に微かな気配を感じた。
慌てて快斗が振り返るのと、プログラムが起動するのと……そして気配を察知した志保が扉を開けるのは同時だった。
「そこで何しているの!」
甲高い声で叫ぶ志保に驚いた快斗だったが、それよりもっと驚いた事が彼の目の前に起きた。
快斗の目の前。丁度不審に思っていたあの円盤の上に浮かび上がる人影。それは、次第に形取り、快斗の良く知る人物の姿になった。
快斗の記憶より、少し若い。高校生探偵と謳われていたあの頃と寸分違わぬその姿。
「し……しんい、ち?」
思わず声を掛ける快斗に、目の前のホログラムは、閉じていた双眸を静かに開き、快斗を見た。

「だ、だめよっ!」
慌てて駆け寄る志保より先に、ホログラムは口を開いた。

「……はじめまして、ご主人様」











「なんて事をしてくれたのよっ!」
怒髪天の形相を呈する志保に、2人は少なからずたじろいだ。2人とは、快斗と……傍にいるホログラムである。
快斗があの場であっさり引き下がった事に、今更ながら疑問を持った志保が慌てて地下に駆け下りてみれば、事態は最悪な結末を迎えていた。

志保にとっては、まさに『最悪』である。

「勝手に他人の家の中に侵入したと思えば、、よりにもよって『shin_1』を起動してしまうなんて。どう責任取ってくれるのよっ!」
「責任……って」
あまりの形相にビクつく快斗だが、ホログラムの方は訳が分からずきょとんとしている。そんな彼は、何故か白衣を着ていた。

「で、でも。オレがこのホログラム欲しかったの、女史だって分かってくれてたじゃないか。どうせ、途中で放り出したプログラムなら、オレんが貰っちゃっても……」
「良くないわよ!」
先程から怒鳴り通しの志保の声が少し掠れていた。その事に気付くと、憤りつつも少し声を落とした。
「やっと私がそこまでプログラムを組んだというのに……どうして、あなたなんかに掠め盗られなきゃならないのよ」
「プログラム……?基本設定しか組まれていないんじゃないの?」
「只のお人形なら、言葉なんて発しやしないわ」
吐き捨てるように言い放つ。快斗がホログラムを見ると、小さく首を傾げたshin_1が「何か?」と訊いてきた。
「えっと……オレの事、知ってる?」
試しにそう訊いてみると、相手は首を左右に振った。
「申し訳ありません。データに入力されていません」
「当たり前よ。どうして、あなたの情報を入力しなきゃならないのよ」

「でも、あなたがボクのご主人様である事は分かります。何か、ご用はおありですか?ご主人様」
ホログラム──『shin_1』はそう言うと、快斗をじっと見つめた。その蒼い双眸は、新一とまったく変わりない。
「……新一だ……」
思わずうっとりする快斗に、志保は忌々しげに吐き捨てた。
「どうしてくれるのよ……!」
「どうして……って」
困った顔をする快斗だが、……実の所、どうしようもなかった。

この試作体ホログラム『shin_1』は、工藤新一のダミーとして考案され開発されたホログラムである。
幸いにも新一が元の姿に戻り、身代わりの必要性が無くなった為に開発は頓挫したのだが、実体ホログラム第1号、『A.I』の開発により、志保が密かに試作体も利用可能にすべく、日夜プログラムを組んでいたのであった。

当の工藤新一にも、そして博士にも内密にして進めていたというのに、とんだ所でこんな邪魔が入ろうとは。
内心志保は、怒りを通り越し、泣きたくなった。

「折角、ここまで組み上げたっていのに……!」
その声が今にも泣きそうで、快斗は慌てた。
快斗は、女性の涙にはめっぽう弱い。
「えっと……あ、じゃあ、返すよ。……ちょっと惜しいけどさ」
「そんなの無理よ」
志保はそう言い捨てると、快斗を睨み付けた。

そうなのだ。
実の所、『shin_1』は、志保が使うべくプログラムを組まれてきたホログラムだった。
新一の『A..I』とは違い、本人が使う気満々なので、変に自動初期化プログラムなどは組まれていない。その代わりにあるのが『インプリンティング機能』だ。
『インプリンティング機能』とは、即ち『すり込み』である。鳥類など、生まれてまず最初に見た動くものを親と認識する……アレと同じ機能である。
初めて起動したホログラムが最初に目にした有機体に対して、「主人」と認識する。それは、彼のデータが崩壊……つまり人の言うところの『死』するまで一生持続するのだ。

これを回避するには、一度彼のデータを抹消させなければならない。これは、普通のリセットとは違い、1からプログラムを書き込んで行く作業となる。
「私が、ここまで組むのにどれだけの時間を費やしたと……」
それもこれも、志保が使用するために、その為にこつこつと組み上げてきたというのに……!

「ごめんなさい。……でも、でもさっ!そう言う女史も、下心有りでコイツを作ったんじゃないの?」
「何よ、下心って……」
「だって、女史には必要ないだろ?新一なんて。そもそも、どうしてコイツを使おうとしたんだよ」
「それは……その、アレよ」
ほんの少し言葉を濁す志保に、快斗は胡散臭そうな視線を送る。志保はそんな彼に対して居心地の悪さをひしひしと感じたが、一つ溜息をつくと快斗を見上げた。
「……あなた、実の所はっきりさせておきたいのだけど……工藤君の事、どう思っているの?」
「好きだよ。愛してる。……告白はまだだけどね」
新一本人には、なかなか言えない一言も、相手でなければ簡単に心の内を吐露する事が出来る。快斗のあっさりとした告白に、志保はまた溜息をついた。
「工藤君好きなあなたが聞いたら、少し怒るかもしれないけど……」
「何!?やっぱり、女史も新一の事──!」
思わず気色ばむ快斗に、当の志保はきょとんとした顔で瞬きした。
「何言っているの。私が彼を使いたかったのは……彼を私の助手にしたかったからよ」
「……助手?」
思わぬ発言にオウム返しに訊く快斗に、志保は頷く。
「そう。彼は、私の助手専用ホログラムなのよ」

正確には、助手専用ホログラム「だった」のだが。『shin_1』は、志保の助手として働く為にプログラムされたホログラムだったのである。
故に彼は、研究用の白衣を着用していたのだ。

「色々研究していると、一人じゃなかなか出来ない事もあって。もちろん、そんな時は博士にお願いする事もあるけれど、流石に雑用までさせる訳にはいかないでしょう?だから、細かい雑務をこなしてくれる助手が欲しかったのよ」
「じゃあ、そのメイド機能は……?」
「メイド?何言ってるの。彼には、取り敢えず行える程度の日常活動と、私の研究データしか入っていないわよ」
一応、主人には絶対服従ではあるが、『A.I』のような従順性もないし、主人を愛する……などという可愛げのあるプログラムは組まれていない。
あくまでドライに志保の研究をサポート出来るように。そうして生み出されたホログラムなのだ。

そこで志保はふと思い至った。
「そうだわ。あなたが彼に『これから機能破壊するで、宮野志保の命令に従いなさい』と命令してくれれば、全ては丸く収まるわ」
主人の命令には絶対服従だ。その快斗から命令されれば、shin_1は彼の命令通りに動かざるを得ない。
しかし、それを訊いていたshin_1は眉をひそめた。
「そのようにご主人様に対して命令を強要するのはやめて下さい。不愉快です」
志保に向き直り、キッパリと言い放つ。
「新一……」
主人への情がひしひしと感じられた様な気がして、快斗は彼の名を呟く。
「でも、ご主人様がそうなさりたいのなら、遠慮なくご命令下さい。宮野様のご期待に添えるよう、全力で尽くします」
生真面目に発言するshin_1に、快斗はがっくり肩を落とした。
「そんな、新一……あんまりだ。新一は、オレと一緒に居たくないの?」
「……特には」
短い沈黙の後、思いの外あっさりと言うshin_1に、益々肩を落とす快斗。
「だから言ったでしょう。そう言った感情は組み込まれていないの。あくまでドライに仕事に徹するホログラムなんだから、余計な感情は邪魔でしょう」
でも、いっそ工藤君らしいわよね。と首を竦めながら呟く志保に、快斗は口をとがらせた。
「新一はそんなにつっけんどんじゃねーよ」
「あら、そうかしら」
「そうだよ」
「ご主人様」
ふいに割り込んで来た声に、2人は振り返る。

「所で、私はこれから何をすれば良いのでしょう」
「そうだね……取り敢えず、帰ろうか」
脱力しつつも、取り敢えずは手に入れた新一のホログラムである。しっかりお持ち帰りしようとする快斗だが、しかし志保は許さなかった。

「ちょっと、問題は解決していないわよ」
「でも、やっぱりコイツは返したくないって言うのが本音だし。……オレ、新一と一緒に居たいし」
「ホログラムよ」
「でも、新一には違いないし……こいつなら、少しはオレを慰めてくれるかもしれないし」
「冗談じゃないわ。私はあなたのダッチワイフとして『shin_1』を作ったんじゃないわ」
「な、何もそんな事に使おうなんて言ってないじゃないか」
「……怪しいわね。そんな事より、彼は此処に置いて行きなさい。その前に彼に命令するのを忘れないでね」
「それこそ冗談!新一をこき使おうなんて、とんだ人非人だね!」
「だから、只のホログラムだと言っているでしょう!」

堂々巡りである。2人の諍いには我関せずと言った風のshin_1も、心なしかうんざりとしているように見えた。


「なら良いわ。そんなに欲しがるのなら、あなたに譲ってあげる。……その代わり、代償はきっちり払って貰いますからね」
話し合いと言うよりは諍いのような会話に疲れてきたのか、志保は譲歩案を持ち出した。
一応、全ての非は自分にあると自覚している快斗である。実験台として何かしろ、と言われるのは困るが、可能であれば、ここは穏便に済ませたい所である。
「代償……って、何だよ」
恐る恐る尋ねた快斗に、志保はあっさりと言い放つ。
「労働力を提供する事に決まっているでしょう?あなたは、これから『shin_1』の代わりに私の助手を務めるの。もちろん、無償でよ。それが出来なければ……」
「分かった、分かりました!無償で働かせて頂きます!」
快斗のその返答に、志保はようやく薄く笑みを見せた。

「なら決まりね。早速今から働いて貰うわ。……ああ、shin_1。あなた、まさか主人だけを働かせるつもりではないでしょうね」
「ご主人様がご命令なさればボクは何時でも……」
「お願い、シンイチ……オレを手伝って」
働く前から疲れ切った表情でお願いする快斗だが、shin_1は嬉しそうに頷いた。

何故なら、彼にとって初めて主人から命令された仕事なのだから。

彼の態度に、志保はにんまり笑った。
すったもんだの末、結局2倍の労働力を手に入れたのである。しかもロハで。
まぁ、多少の制約はあるが、取り敢えずこれで満足しよう。と、志保は内心そう思ったのだ。



こうして、『shin_1』はシンイチとして、黒羽快斗が所有する事になった。
彼とホログラムのそれなりに楽しい生活は、また別の話。






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2003.09.28
Open secret/written by emi

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